京都地方裁判所 平成元年(行ウ)14号 判決 1992年2月26日
京都府亀岡市古世町三丁目二番五号
原告
石野文夫
右訴訟代理人弁護士
籠橋隆明
京都府船井群園部町小山東町溝辺二一番地二
被告
園部税務署長 太田和男
右指定代理人
塚本伊平
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
一 原告(請求の趣旨)
1 被告が原告に対し、昭和六三年三月三日付けでそれぞれした原告の昭和五九年分の所得税の総所得金額を六九四万一、〇五〇円、同六〇年分の所得税の総所得金額を七九三万八、二〇五円、同六一年分の所得税の総所得金額を七四六万八、四二七円と更正した処分のうち、昭和五九年分につき二一六万三、八六六円を、同六〇年分につき二五八万九、九〇〇円を、同六一年分につき三五四万〇、二〇〇円をそれぞれ超える部分及びこれらに対応する各過少申告加算税の賦課決定処分をそれぞれ取消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決。
二 被告(答弁)
主文同旨の判決。
第二当事者の主張
一 原告(請求原因)
1 原告は、京都府亀岡市篠町柏原町頭四五番地において「石野酒店」の屋号で酒類及びたばこの販売業を営む者であるが、昭和五九年分ないし同六一年分の所得税の確定申告、更正処分、異議申立、異議決定、審査請求、裁決等の課税の経緯は別表甲1のとおりである(以下、昭和六三年三月三日付の同五九年分ないし同六一年分の所得税の各更正処分を「本件各処分」という)。
2 本件各処分には、以下のような違法がある。
(一) 被告は、原告に対する税務調査につき、第三者の立会いを認めず、調査理由の開示を行わないなどの違法な調査に基づき、本件各処分を行なった。
(二) 被告の行なった本件各処分は、原告の所得を過大に認定した違法がある。
3 よって、原告は被告に対し、本件各処分のうち別表甲1の各年分の確定申告欄記載の額を超える部分の取消を求める。
二 被告(認否、主張)
1 認否
(一) 請求原因一1の各事実を認める。
(二) 同2(一)(二)をいずれも争う。
2 主張
(一) 第三者の立会い、調査理由の開示について
第三者の立会いを認めること、調査理由を個別的、具体的に開示することは、質問調査を行なうための法律上の要件ではない。したがって、本件各処分は、税務調査において第三者の立会いを認めず、また調査理由を具体的に告知しなかったとしても、違法とならない。
(二) 事業所得金額について
(1) 推計課税の必要性
イ 原告が被告に提出した本件係争各年分の所得税の確定申告は、事業所得について、昭和五九年分及び同六〇年分についてはそれぞれ専従者控除と所得金額の各数額が記載されているのみで、「収入金額」欄と「必要経費」の各欄になんら記載がなく、また、同六一年分については「必要経費」欄の記載を欠いていることから、被告は、所得金額が適正なものであることを確認できなかったので、本件係争各年分についての原告の申告にかかる所得金額が適正なものかどうかを確認するため、部下職員を原告の所得税調査に当たらせた。
ロ 右職員は、昭和六二年五月一五日から同六三年二月一二日までの間に、前後七回にわたり、原告の事業所に臨場し、その際、あるいは電話で、原告に対し、本件係争各年分の事業所得の金額の算定の基礎となるべき帳簿書類等の提示を求めた。しかしながら、原告はその間、終始、第三者の立会いを要求して質問検査に応じず、帳簿書類を提出しなかった。
以上の経緯により、被告はやむを得ず、推計の方法により算出した金額に基づき本件各処分を行なったのであり、推計の必要性がある。
(2) 売上金額
イ 酒類販売業に係る売上金額
(イ) 推計の合理性
被告が、原告の本件係争各年分の酒類販売業にかかる売上金額等の算定にあたって用いた、同業者の選定経緯及びその推計は、次のとおり合理的である。すなわち、
大阪国税局長は、被告、及び、京都府下で園部税務署に隣接する上京、右京、福知山税務署の各署長に対し、本件係争年分につき青色申告により所得税の確定申告書を提出している者のうちから、本件係争各年分を通じて次の<1>ないし<7>の全ての基準を充たす者を抽出するよう通達指示したところ、右各税務署長が右基準にしたがって抽出した同業者は四八件であり、その売上金額、売上原価、売上原価率、一般経費、一般経費率は別表乙4ないし6のとおりである。
<1> 酒類販売業を営んでいること。
<2> 酒類販売業以外の業種目を兼業していないこと。
<3> 事業所が自署管内にあること。
<4> 年間を通じて事業を継続して営んでいること。
<5> 売上原価が、本件係争各年分を通じて、四、八〇〇万円以上、一億六、九〇〇万円未満であること。なお、右売上原価の範囲は、事業規模の類似性を担保するため、被告主張の原告の売上原価を基準に、上限を最高年分の約一・五倍、下限を最低年分の約半分としたものである。
<6> 青色専従業者が一名または二名いること。
<7> 本件係争各年分の所得税について、不服申立または訴訟が継続中でないこと。
右抽出基準によって抽出された同業者は、業種、業態、事業場所、事業規模の点において原告との類似性を具備しており、またその抽出過程は、大阪国税局長が発した通達に基づき機械的になされたもので、抽出にあたって恣意が介在する余地がなく、その結果得られた同業者は、その平均値が、個々の同業者問の差異を包括して一般化するに足るものといえる。
したがって、右により選定された同業者の売上原価率の平均値は、普遍性が担保されており、被告がこれを用いて原告の本件係争各年分の事業所得を推計したことは、合理的である。
(ロ) 売上金額の算出
原告の本件係争各年分の酒類販売業にかかる売上原価は、後期(3)イのように、別表乙1ないし3の各<3>欄のとおりである。
原告の本件係争各年分の酒類販売業にかかる売上金額(別表乙1ないし3の各<1>欄参照)は、右係争各年分の売上原価を、別表乙4ないし6の各1ないし3の各<3>欄記載の、同業者の当該各年分の売上原価率(売上原価の売上金額に対する割合)の平均値(同業者売上原価率、別表乙1ないし3の各<2>欄参照)で除して算出したものである。
ロ たばこ販売業に係る売上金額
たばこ事業法三六条(小売定価による販売義務)の規定に照らして、原告のたばこ販売業にかかる売上金額は、原告の仕入れたたばこの小売定価の合計額(その内訳、別表乙7「小売定価の明細表」記載のとおり)と同じであると推計するのが相当であり、その結果は、別表乙1ないし3の各<1>売上金額欄記載のとおりである。
(3) 必要経費
イ 酒類販売業にかかる売上原価
原告の本件係争各年分の酒類販売業にかかる売上原価は、別表乙1ないし3の各<3>売上原価欄記載のとおりであり、その内訳は、別表乙8「仕入金額の明細表」記載のとおりである。なお、各期首・期末の棚卸額は不明であるので、いずれも同額と推定する。
ロ 酒類販売業にかかる一般経費
(イ) 推計の合理性
被告が原告の本件係争各年分の酒類販売業にかかる一般経費の算定に用いた同業者の選定経緯及びその推計が合理的であることは、前示(2)イ(イ)と同様である。
(ロ) 一般経費の算出
原告の本件係争各年分の酒類販売業にかかる一般経費(別表乙1ないし3の各<5>一般経費欄参照)は、前示(2)イ(ロ)の、原告の酒類販売業にかかる売上金額に、別表乙4ないし6の各1ないし3の各<5>一般経費率欄記載の、同業者の当該各年分の一般経費率(一般経費の売上金額に対する割合)の平均値(同業者一般経費率、別表乙1ないし3の各<4>欄参照)を乗じて算出したものである。
ハ たばこ販売業にかかる算出経費
(イ) 推計の合理性
被告が原告の本件係争各年分のたばこ販売業にかかる経費の算定にあたり用いた同業者の選定経緯及びその推計は、以下のとおり合理的である。すなわち、
大阪国税局長は、被告、及び、京都府下で園部税務署に隣接する状況、右京、福知山税務署の各署長に対し、本件係争年分につき青色申告により所得税の確定申告書を提出している者のうちから、本件係争各年分を通じて次の<1>ないし<6>の全ての基準を充たす者を抽出するよう通達指示したところ、右各税務署長が右基準にしたがって抽出した同業者は八件であり、その売上金額、算出経費、算出経費率は別表乙9ないし11のとおりである。
<1> たばこ販売業を営んでいること。
<2> たばこ販売業以外の業種目を兼業していないこと。
<3> 事業所が自署管内にあること。
<4> 年間を通じて事業を継続して営んでいること。
<5> 売上原価が本件係争各年分を通じて、一、四〇〇万円以上、五、一〇〇万円未満であること。なお、右売上原価の範囲は、事業規模の類似性を担保するため、被告主張の原告の売上金額を基準に、上限を最高年分の約一・五倍、下限を最低年分の約半分としたものである。
<6> 本件係争各年分の所得税について、不服申立または訴訟が継続中でないこと。
右抽出基準によって抽出された同業者は、業種、業態、事業場所、事業規模の点において原告との類似性を具備しており、またその抽出過程は、大阪国税局長が発した通達に基づき機械的になされたもので、抽出にあたって恣意が介在する余地がなく、その結果得られた同業者は、その平均値が、個々の同業者間の差異を包括して一般化するに足るものといえる。
したがって、右により選定された同業者の算出経費率の平均値は、不遍性が担保されており、被告がこれを用いて原告の本件係争各年分の経費を推計したことは、合理的である。
(ロ) 経費の算出
原告の本件係争各年分のたばこ販売業にかかる算出経費(別表乙1ないし3の各<7>算出経費(たばこ販売業)欄参照)は、前示(2)ロの、たばこ販売業の売上金額(別表乙1ないし3の各<1>、たばこ販売業欄)に、別表乙9ないし11の各<3>算出経費率欄記載の、同業者の同額各年分の算出経費率(算出経費の売上金額に対する割合)の平均値(同業者算出経費率、別表乙1ないし3の各<6>欄参照)を乗じて算出したものである。
ニ 特別経費(給料賃金)
別表乙1ないし3の各<8>欄記載のとおりであり、その内訳は、別表乙12「給料賃金の明細表」記載のとおりである。
ホ 事業専従者控除額
別表乙1ないし3の各<9>欄記載のとおりである。
(4) 事業所得金額
原告の本件係争各年分の事業所得の金額は、酒類販売業にかかる売上金額(前示(2)イ(ロ))と、たばこ販売業にかかる売上金額(前示(2)ロ)との合計から、酒類販売業にかかる売上原価(前示(3)イ)、酒類販売業にかかる一般経費(前示(3)ロ(ロ))、たばこ販売業にかかる算出経費(前示(3)ハ(ロ))、特別経費(前示(3)ニ)及び事業専従者控除額(前示(3)ホ)を控除した金額であり、別表乙ないし3の各<10>欄記載のとおりである。
(三) 給与所得の金額
原告の本件係争各年分の給与所得の金額は、別表乙1ないし3の各<11>欄ないし<15>欄記載のとおりである。
(四) 総所得金額
原告の本件係争各年分の総所得金額は、事業所得金額(前示(二)(4))と給与所得(前示(三))の金額の合計額であり、別表乙1ないし3の各<16>欄記載のとおりである。
三 原告(認否、反論)
1 認否
(一) 被告の主張二2(一)を争う。
(二)(1) 同二2(二)(1)を争う。
(2) 同(2)イ(イ)を争う。同(ロ)のうち、原告の本件係争各年分の酒類販売業にかかる売上原価をいずれも認めるが、その余を争う。同(2)ロをいずれも争う。
(三)(1) 同二2(二)(3)イの事実を認める。
(2) 同(ロ)イを争い、(ロ)の各事実を否認する。
(3) 同ハ(イ)を争い、(ロ)の各事実を否認する。
(4) 同二の各事実を認める。但し、給料賃金を支払っている対象者は、これに限定されない。
(5) 同ホの各事実を認める。
(四) 同二2(二)(4)の各事実を否認する。
(五) 同二2(三)の各事実を認め、同(四)の各事実を否認する。
2 反論
(一) 推計の必要性について
原告の税務調査を担当した税務職員藤田和久は、原告方に臨場しては三分ないし五分原告らと話すのみで、次の調査日時を一方的に指定して帰ることを繰り返し、調査を尽くそうとしなかった。したがって、本件では、未だ推計課税の必要性があるとはいえない。
(二) 推計の合理性について
(1) 原告が営む酒類販売業は、掛売り、配達が中心で、店頭現金販売中心の酒類販売業者に比べて利益率が低い。ところが被告主張の推計は右のような原告の特殊性を無視したものであり、これには合理性がない。
(2) 原告は、三名の常勤の従業員の他、常時五名程度のアルバイトを雇っていた。したがって、推計の基礎となる同業者は、原告とほぼ同数の従業員人を有する、規模の類似した同業者でなければならないところ、被告はこのような事情を無視して同業者を選定しているので、被告主張の推計には合理性がない。
四 被告(認否)
原告の反論三2をいずれも争う。
第三証拠
証拠に関する事項は、本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 原告の請求原因一1の各事実は当事者間に争いがない。
二 原告の請求原因一2(一)及び被告の主張二2(一)について検討する。
税務職員による質問検査については、その範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、右必要と相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な程度にとどまる限り、権限のある税務職員の合理的な選択に委ねられており、また、調査理由の個別的、具体的な告知は法律上一律の要件とされているものではなく、調査を相当する税務職員の裁量によると解すべきである(最決昭和四八年七月一〇日刑集二七巻七号一二一一頁、最判昭和五八年七月一四日訟務月報三〇巻一五一頁参照)。
そして、本件において、税務調査に第三者を立合わせなかったことや調査理由を開示しなかったことが調査担当職員の裁量権の濫用であるとか、本件調査がその必要がないのに、あるいは社会通念上相当でない方法で行なわれた違法があるとすべき事情は本件全証拠によっても認められないから、原告の請求原因一2(一)の主張は理由がない。
三 推計の必要性について
1 成立に争いがない乙第一二号証、証人藤田和久の証言及び弁論の全趣旨によれば、被告の税務調査担当職員藤田和久は、昭和六二年五月一五日から翌六三年二月一二日までの間、前後七回にわたり、原告方に臨場したものの、五月一五日、一八日、一九日、二九日、昭和六三年二月一二日には、原告本人が不在であり、原告が在宅であった六月四日及び九月一六日には、藤田が原告に対して帳簿書類の提出を求めたところ、原告が第三者の立会いを強く要求して、その立会いがない限り、確定申告書記載の所得金額の正確性を確認し得る帳簿書類の提示を拒否する旨述べたため、いずれの日も調査ができなかったことが認められる。
2 これに対し、原告は、前示反論三2(一)において、右藤田は、原告方に臨場しても、三分ないし五分程度原告らと話しては一方的に次回調査期日を指定するのみで帰ってしまい、実質的な調査を尽くそうとせず、これを回避した旨を主張するが、乙第一二号証及び証人藤田の証言によれば、右藤田が原告らと短時間しか話さなかったのは、原告本人が不在であったり、あるいは原告が第三者の立会いを強く要求してこれに固執したために第三者の立会いなしで税務調査が行なえないと判断したためであることが認められ、また、次回調査期日を指定したのは概ね藤田であったとはいえ、同人が殊更に原告不在の日を狙って調査期日を指定したものとは到底認められず、かえって、六月四日の調査期日は、原告側の希望に応じて設定したもので、右藤田が実質的な税務調査を回避したものでないことが明らかである。証人石野明の証言のうち、原告の主張に副う部分は、あいまいかつ具体性を欠き、前掲各証拠、弁論の全趣旨に照し、遽かに信用できない。
3 右1、2認定の各事実に照らすと、原告の本件係争各年分の所得税について推計課税をする必要性があったことが認められ、他にこれを動かすに足る証拠がない。
四 推計の合理性について
1 証人中島孝一の証言、これにより成立の真正が認められる乙第一ないし第八、第一四号証及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の各事実を認めることができ、外にこの認定を覆すに足る証拠がない。すなわち、
(一) 原告の本件係争各年分の酒類販売業にかかる売上金額を算出するにあたり、大阪国税局長は、被告、及び京都府下で園部税務署に隣接する上京、右京、福知山税務署の各署長に対し、本件係争各年分につき青色申告により所得税の確定申告書を提出している者のうちから、本件係争各年分を通じて、次のイないしトの全ての基礎を満たす者の全ての基準を充たす者を抽出するように通達指示したところ、右各税務署長が右基準にしたがって、抽出した同業者は計四十八であり、その売上金額、売上原価、売上原価率、一般経費、一般経費率は別表乙1ないし3のとおりであった。
イ 酒類販売業を営んでいること。
ロ 酒類販売業以外の業種目を兼業していないこと。
ハ 事業所が自署管内にあること。
ニ 年間を通じて事業を継続して営んでいること。
ホ 売上原価が、本件係争各年分を通じて、四、八〇〇万円以上、一億六、九〇〇万円未満であること。なお、右売上原価の範囲は、事業規模の類似性を担保するため、被告主張の原告の売上原価を基準に、上限を最高年分の約一・五倍、下限を最低年分の約半分としたものである。
ヘ 青色専従事業者が一名または二名いること。
ト 本件係争各年分の所得税について、不服申立または訴訟が継続中でないこと。
(二) 原告の本件係争各年分のたばこ産業にかかる経費を算出するためにあたり、大阪国税局長は、被告、及び京都府下で園部税務署に隣接する上京、右京、福知山税務署の各署長に対し、本件係争各年分につき青色申告により所得税の確定申告書を提出している者のうちから、本件係争各年分を通じて、次のイないしへの全ての基準を充たす者を抽出するように通達指示したところ、右各税務署長が右基準にしたがって抽出した同業者は計八件であり、その売上金額、算出経費、算出経費率は別表乙1ないし3のとおりであった。
イ たばこ販売業を営んでいること。
ロ たばこ販売業以外の業種目を兼業していないこと。
ハ 事業所が自署管内にあること。
ニ 年間を通じて事業を継続して営んでいること。
ホ 売上原価が、本件係争各年分を通じて、一、四〇〇万円以上、五、一〇〇万円未満であること。なお、右売上原価の範囲は、事業規模の類似性を担保するめ、被告主張の原告の売上金額を基準に、上限を最高年分の約一・五倍、下限を最低年分の約半分としたものである。
ヘ 本件係争各年分の所得税について、不服申立または訴訟が継続中でないこと。
2 右各認定事実によれば、右各同業者の選定基準は、業種の同一性、事業場所の近接性、事業規模の近似性等の点で、同業者の類似性を判別する要件としては合理的なものであり、その抽出作業について被告あるいは大阪国税局長の恣意の介在する余地は認められず、かつ、右の調査結果の数値は青色申告に基づいたものでその申告が確定しており信頼性が高く、抽出した同業者数も、酒類販売業にかかる売上原価算出については、四八名、たばこ販売業にかかる経費算出については八名であることから、各同業者の個別性を包括して平均化するに足りるものということができる。したがって、原告の本件係争各年分の所得金額の推計を行なうにあたり、右各同業者の平均売上原価率、平均一般経費率及び平均算出経費率を用いることは、特段の事情がない限り、合理性があるものというべきである。
3 原告は、右推計の合理性を妨げる原告の個別的事情として、前示反論三2(二)(1)(2)の各事情を主張するので、以下この点につき検討する。
(一) 原告は、その営む酒類販売業が掛売り、配達中心で、店頭現金販売中心の酒類販売業者に比べ利益率が低い、と主張するが、推計による所得金額の算出において、推計、平均値の性質上、同業者との間に通常存在する程度の営業条件の差異は、平均値の中に吸収され、これを捨象し母集団の代表値である平均値をもって推計することが許されるところ、本件につき、掛売り、配達中心の業者と店頭現金販売中心の業者との間に著しい利益率の差異があるという、原告主張に副う原告本人尋問の結果の一部は、その的確な裏付け証拠もなく、弁論の全趣旨に照らし遽かに措信できないし、他に、右平均値による推計を不合理にするほどの特殊性があることを認めるに足る的確な証拠がない。
(二) また、原告は、三名の常勤従業員の他に常時五名程度のアルバイトを雇っていたにもかかわらず、被告はこのような事情を無視して同業者を選択した、と主張するが、被告は、事業所得の金額を計算する際、従業員三名(石野明、石野才知子、四方雅美)の給料賃金を特別経費として実額で差し引いている。他方で、五名程度のアルバイトがいた、という主張については、後記五2(四)のとおり、これを認めるに足る的確な証拠がない。
(三) 以上によれば、原告の右各主張は採用できず、これにより前示推計の合理性を動かすことができない。
五 事業所得金額の計算
1 売上金額
(一) 酒類販売業にかかる売上金額
(1) 原告の酒類販売業にかかる売上原価が、昭和五九年分は九、七八三万六、五一九円、同六〇年分は一億一、二三七万二、九一二円、同六一年分は一億一、二三〇万五、七三六万円であることは、当事者間に争いがない。
(2) 右各売上原価を、別表乙1ないし3の各<2>欄の同業者売上原価率で除して得られる原告の売上金額は、被告の主張二2(二)イ(ロ)にいう別表乙1ないし3の各<1>欄の金額と同額である(別表裁1ないし3の各<1>欄)。
(二) たばこ販売業にかかる売上金額
成立に争いがない乙第一三号証の一ないし八及び弁論の全趣旨によれば、原告の本件係争各年分のたばこ販売業にかかる売上金額は、たばこ事業法三六条に照らすと、各期首・期末の棚卸額を同額と推定して、原告の仕入れたたばこの小売定価の合計額と同じであると推計するのが相当であるから、これにより昭和五九年分が二、八〇一万二、六〇〇円、同六〇年分が三、二一九万一、七〇〇円、同六一年分が三、三五三万四、七六〇円であることが認められる。(別表裁1ないし3の各<1>、たばこ販売業欄)。
2 必要経費
(一) 酒類販売業にかかる売上原価
前示1(一)(1)のとおり当事者間に争いがない。
(二) 酒類販売業にかかる一般経費
別表裁1ないし3の<1>欄の各酒類販売の売上金額欄記載の金額に、別表乙1ないし3の各<4>欄記載の同業者一般経費率を乗じて得られる酒類販売業にかかる原告の一般経費は、被告の主張二2(二)(3)イ(ロ)にいう別表乙1ないし3の各<5>、酒類販売業欄記載の金額と同額である(別表裁1ないし3の各<5>、酒類販売業欄)。
(三) たばこ販売業にかかる算出経費
別表裁1ないし3の<1>欄の各たばこ販売業の売上金額欄に記載の金額に、別表乙1ないし3の各<6>欄記載の同業者算出経費率を乗じて得られるたばこ販売業にかかる原告の算出経費は、被告の主張二2(二)(3)ハ(ロ)にいう別表乙1ないし3の各<7>欄記載の金額と同額である。(別表裁1ないし3の各<7>欄、<1>×<6>)。
(四) 特別経費(給料賃金)
別表乙1ないし3の各<8>欄記載の金額は、当事者間に争いがない。なお、原告は、給料賃金はこれを超えて、他に四ないし六名のアルバイトを雇い賃金を支払っていた旨主張し、本人尋問において、これに副う陳述をするが、その的確な裏付け証拠がないこと、甲第三号証のアルバイト各人が記入したとする部分について、いずれも筆跡が酷似しており、アルバイト各人が個別に記入したとは認め難く、他に甲第三号証の成立の真正を認めるに足る証拠がないこと、原告において、住所氏名のみならず、支払金額、勤務時間等の具体的な事実を主張、立証していない等弁論の全趣旨に照らし、遽かに措信できず、他に右アルバイトの存在を認めるに足る的確な証拠がない。したがって、特別経費(給料賃金)は、別表裁1ないし3の各<8>欄記載の限度でこれを認める。
(五) 事業専従者控除額
本件係争各年につき九十万円であることは当事者間に争いがない(別表裁1ないし3の各<9>欄)。
3 事業所得金額
以上の各事実によれば、原告の本件係争各年分の事業所得金額は、酒類販売業にかかる売上金額とたばこ販売業にかかる売上金額の合計から、酒類販売業にかかる売上原価、酒類販売業にかかる一般経費、たばこ販売業にかかる算出経費、両業を通じた特別経費(給料賃金)及び事業専従者控除額を控除した額であるから、別表裁1ないし3の各<10>欄記載のとおりとなる。
六 給与所得の金額
本件係争各年分の原告の給与所得の金額が、被告の主張二2(三)にいう別表乙1ないし3の各<11>欄ないし<15>欄記載のとおりであることは、当事者間に争いがない(別表裁1ないし3の各<11>ないし<15>欄)。
七 総所得金額
以上によれば、原告の本件係争各年分の総所得金額は、事業所得金額と給与所得金額の合計額であり、被告の主張二2(四)にいう別表乙1ないし3の各<16>欄記載のとおりとなる。(別表裁1ないし3の各<16>欄)。したがって、本件各処分は、右各総所得金額の範囲内でなされた適法な処分であって、これに違法な点はなく、請求原因一2(二)は理由がない。
八 結論
以上のとおり、原告の本件請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 吉川義春 裁判官 菅英昇 裁判官 佐藤洋幸)
別表 甲1
課税処分等経緯表
<省略>
別表 乙1
総所得金額の計算書(昭和59年分)
<省略>
別表 乙2
総所得金額の計算書(昭和60年分)
<省略>
別表 乙3
総所得金額の計算書(昭和61年分)
<省略>
別表 乙4の1
同業者(酒類販売業者)一覧表(昭和59年分)
<省略>
別表 乙4の2
同業者(酒類販売業者)一覧表(昭和59年分)
<省略>
別表 乙4の3
同業者(酒類販売業者)一覧表(昭和59年分)
<省略>
別表 乙5の1
同業者(酒類販売業者)一覧表(昭和60年分)
<省略>
別表 乙5の2
同業者(酒類販売業者)一覧表(昭和60年分)
<省略>
別表 乙5の3
同業者(酒類販売業者)一覧表(昭和60年分)
<省略>
別表 乙6の1
同業者(酒類販売業者)一覧表(昭和61年分)
<省略>
別表 乙6の2
同業者(酒類販売業者)一覧表(昭和61年分)
<省略>
別表 乙6の3
同業者(酒類販売業者)一覧表(昭和61年分)
<省略>
別表 乙7
小売定価の明細表
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別表 乙8
仕入金額の明細表
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別表 乙9
同業者(たばこ販売業者)一覧表(昭和59年分)
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別表 乙10
同業者(たばこ販売業者)一覧表(昭和60年分)
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別表 乙11
同業者(たばこ販売業者)一覧表(昭和61年分)
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別表 乙12
給料賃金の明細表
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別表 乙13
給料賃金の明細表
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別表 裁1 総所得金額の計算書(昭和59年分)
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別表 裁2 総所得金額の計算書(昭和60年分)
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別表 裁3 総所得金額の計算書(昭和61年分)
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